2025年10月、那覇空港を離陸した全日空(ANA)機内で、乗客の手荷物内にあったモバイルバッテリーから煙が発生したと報じられました。機内という閉ざされた環境での発火は非常に危険であり、多くの人に衝撃を与えています。
このニュースをきっかけに、「自分が使っているモバイルバッテリーは安全なのか?」「飛行機への持ち込みは大丈夫?」「どんな使い方をすれば安全なのか?」と不安を感じた方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、モバイルバッテリー発火の原因や構造、安全な選び方や機内でのルール、そして万が一のトラブル時の対処法まで、初心者にもわかりやすく解説します。ニュースを見て不安になるよりも、正しい知識を身につけて安心してモバイル機器を使えるようにしていきましょう。
モバイルバッテリーが発火する仕組みと危険性
リチウムイオン電池の構造と発火メカニズム
モバイルバッテリーの多くに使われているのが「リチウムイオン電池」です。これは、軽量かつ高出力という特徴を持つ一方で、内部に「可燃性の電解液」を含むため、取り扱いを誤ると発火する危険性を持ちます。
電池内部は、プラス極(正極)・マイナス極(負極)・セパレーター(絶縁体)・電解液から構成されます。何らかの原因で内部がショートすると、急激な発熱が起こり、電解液が気化して圧力が上昇。結果として「熱暴走」と呼ばれる現象が起き、炎を伴う発火へとつながります。
外部からの強い衝撃や圧迫、過充電、端子の汚れ・水分、経年劣化による絶縁破壊などが主な原因です。特に格安・無認証製品や古いバッテリーでは安全回路が不十分な場合もあり、リスクが高まります。
発火事例と事件の共通点
近年、モバイルバッテリーの発火事故は国内外で相次いでいます。空港ロビーや電車内、ゴミ収集車内での火災報告もあり、共通する原因として「衝撃」「過熱」「劣化した電池」「非正規製品の使用」が挙げられます。
今回の全日空機内のケースでは、座席下に置かれた手荷物内のモバイルバッテリーから発火したとされています。離陸直後というタイミングから、衝撃や充電中の過熱などが引き金となった可能性がありますが、調査結果は今後発表される見込みです。
こうした事故は、誰にでも起こり得る「身近なリスク」です。特に飛行機や電車など、避難の難しい密閉空間では深刻な被害を招く恐れがあります。
発火による被害とリスク
モバイルバッテリーの発火は、単なる「小さな火花」では済まないことがあります。強い炎や煙、ガスを発生させることがあり、近くの荷物や衣類、電子機器に燃え移る危険性もあります。
特に機内や車内など閉ざされた場所では、酸素が限られているため一酸化炭素中毒の危険性もあり、煙の吸引による健康被害が懸念されます。また、発火時に周囲がパニックになり、二次的な怪我や混乱を招くケースもあります。
つまり、「モバイルバッテリーの発火」は、単なる製品不良ではなく、私たちの日常生活全体に関わる安全課題と言えるのです。
安全に使うためのルールと対策(選び方・使い方・処分)
機内持ち込み・航空輸送のルール
リチウムイオン電池を使用するモバイルバッテリーは、国際民間航空機関(ICAO)および国土交通省の規定により、「手荷物としての持ち込み」は可能ですが、「預け入れ荷物としての搭載は禁止」とされています。
具体的には、容量(ワット時定格量=Wh)によって以下のように分類されます。
- 100Wh以下:機内持ち込み可能(制限なし)
- 100Wh〜160Wh:航空会社の許可があれば持ち込み可能(通常2個まで)
- 160Wh以上:持ち込み・預け入れともに不可
つまり、通常のスマートフォンやノートPC用のモバイルバッテリーは問題ありませんが、大容量タイプやポータブル電源は制限の対象となります。旅行前に必ず製品のWh表記を確認し、航空会社の最新ルールを確認することが重要です。
安全なモバイルバッテリーの選び方と使い方
発火事故を防ぐためには、まず「信頼できる製品を選ぶ」ことが第一歩です。日本国内で販売されている製品には、電気用品安全法に基づく「PSEマーク」が義務付けられています。このマークがない製品は使用を避けましょう。
また、次の点も安全性の判断基準になります。
- メーカーの公式サイト・サポート体制がある
- 保護回路(過充電・過放電・短絡防止)が搭載されている
- 放熱設計が適切である(樹脂製より金属製が安全な場合も)
- 「LiFePO₄(リン酸鉄リチウム)」電池など、安全性の高い素材を採用している
使用中は、直射日光の下や高温の車内に放置しないこと、充電中に布やカバンの中に入れないことが大切です。さらに、端子にほこりや水分がつかないよう注意し、膨張や変色などの異常が見られた場合は使用を中止してください。
発火・劣化したバッテリーの処分と対処法
モバイルバッテリーは通常の家庭ごみとして捨てることはできません。発火事故の多くは、廃棄時に他の金属と接触してショートすることが原因です。
使用済みのバッテリーは、家電量販店・ホームセンター・自治体が設置する「小型充電式電池リサイクルBOX」に入れて回収してもらいましょう。
神奈川県綾瀬市のように、実際に誤廃棄によってゴミ収集車が発火した事例も報告されています。
もし発火した場合は、素手で触らず、できる限り離れて119番通報を行いましょう。小規模な火の場合、消火器(粉末式)や砂を使って酸素を遮断するのが効果的ですが、水をかけると危険な場合があります。安全を最優先に行動してください。
まとめ:モバイルバッテリーを「安全に使う」意識を持とう
今回の全日空機内でのモバイルバッテリー発火報道は、私たちが普段何気なく使っているデバイスの危険性を再認識させる出来事でした。
モバイルバッテリーは便利な一方で、リチウムイオン電池という“扱いに注意が必要な化学製品”です。正しい知識と使い方を理解していれば、発火や爆発のリスクは大幅に減らすことができます。
・信頼できる製品を選ぶ
・過充電や高温環境を避ける
・異常を感じたら即使用を中止する
・正しい方法で廃棄する
これらの基本を守るだけで、安全性は格段に高まります。スマートフォンやノートPCを快適に使うためにも、「便利さの裏にあるリスク」を理解し、日常の安全意識を高めていきましょう。
本記事が、あなたのガジェットライフをより安心・安全なものにする一助となれば幸いです。
3. 飛行機内でのモバイルバッテリー発火事故の過去事例
3-1. 国内外で実際に起きた発火トラブル
モバイルバッテリーの発火事故は、今回のANA便に限らず、過去にも国内外の航空機内で複数報告されています。例えば、2017年には中国の成都発便で、搭乗客のリュックサックに入っていたモバイルバッテリーが突然煙を上げ、乗務員が消火器で対応した事例があります。また、日本国内でも2019年に羽田発の航空機でリチウムイオンバッテリーが加熱し、離陸前に機内が一時騒然となるケースがありました。
こうした事故はいずれも、バッテリーの劣化や外的衝撃、過充電などが原因とされています。特に安価な製品やノーブランド品では、安全回路が不十分な場合が多く、過熱・発火のリスクが高いことが指摘されています。
3-2. 発火が発生すると機内はどうなる?
機内でのモバイルバッテリー出火は、狭い空間かつ密閉環境である航空機内にとって極めて危険な状況です。火花や煙が発生した場合、酸素マスクが降りることはありませんが、乗務員は即座に消火器(ハロゲン系消火器)や防火袋を用いて火を封じ込めます。煙の吸引を防ぐため、乗客には口や鼻をハンカチなどで覆うよう指示が出されることもあります。
また、発火が原因で電子機器の使用制限が一時的に強化されたり、航空管制に報告して緊急着陸を検討するケースもあるなど、影響は甚大です。わずか数百グラムのバッテリーが機全体の安全運航を脅かすリスクを持つことを、私たちは改めて認識する必要があります。
3-3. 国際的なルールの整備と今後の課題
国際民間航空機関(ICAO)や国際航空運送協会(IATA)は、リチウムイオン電池を含む電子機器の航空輸送について厳しいガイドラインを定めています。特に貨物としての輸送は禁止または制限されており、乗客が持ち込む場合も機内手荷物としての携行が原則です。しかし、近年は持ち込み台数や容量の増加により、現場のチェックが追いつかないケースも見られます。
今後の課題として、乗客への啓発強化と同時に、製品の安全認証制度の国際標準化が求められています。メーカー・航空会社・政府機関が一体となって、再発防止の仕組みを築くことが重要です。
4. モバイルバッテリーの安全な選び方と持ち運び方
4-1. 信頼できるメーカー・PSEマークの確認
モバイルバッテリーを選ぶ際は、まず「PSEマーク(電気用品安全法に基づく表示)」があるかどうかを確認しましょう。このマークは日本国内で販売される電気製品に義務づけられており、安全基準をクリアしたことを示します。特にネット通販では、海外製やノーブランド品に紛れてPSE非対応の製品が出回ることがあるため注意が必要です。
また、Anker(アンカー)やRAVPower、エレコムなどの信頼性の高いブランドを選ぶことも、安全性を確保する上で重要です。レビューだけでなく、販売元の実績や保証体制もチェックしておきましょう。
4-2. 飛行機内に持ち込む際のルール
航空会社ごとに細部は異なりますが、ANAやJALなど日本の主要航空会社では以下のルールが一般的です:
- 定格容量が100Wh以下のモバイルバッテリーは持ち込み可(台数制限なし)
- 100Wh~160Whの製品は、事前申告のうえ2個まで持ち込み可
- 160Wh以上の大容量バッテリーは持ち込み・預け入れともに禁止
また、預け入れ手荷物(スーツケースなど)にはモバイルバッテリーを入れないよう注意が必要です。貨物室内での発火は即座に発見・消火が困難なため、必ず機内に持ち込みましょう。
4-3. 持ち運び時に気をつけたいポイント
モバイルバッテリーを安全に持ち歩くためには、以下の点にも注意が必要です:
- カバンの中で金属と接触しないよう、専用ケースに入れる
- 直射日光や高温の車内に放置しない
- 落下・衝撃を与えない
- 長期間使わない場合は、50%程度まで放電してから保管する
特に、USB端子部分にホコリや金属片が入り込むとショートの原因になるため、定期的に清掃しておくと安心です。
5. ANAの今後の対応と乗客が取るべき心構え
5-1. ANAが強化を進める安全対策
今回の事故を受けて、ANAでは機内持ち込み時のバッテリー確認体制をさらに強化する方針です。具体的には、搭乗口でのランダム確認や、保安検査員への研修拡充が検討されています。また、乗客への注意喚起動画を機内エンターテインメントで放映するなど、情報発信面の改善も進む見通しです。
ANAはこれまでも安全基準を業界の中でも厳格に運用してきましたが、今回の件は「安全文化を再確認する契機」として位置づけているようです。
5-2. 乗客一人ひとりに求められる意識改革
飛行機の安全は、航空会社だけでなく、乗客の協力によって成り立っています。特にスマートフォンやバッテリーを多く持ち歩く現代では、「自分の持ち物がリスクになり得る」という意識を持つことが重要です。出発前には持ち物チェックを徹底し、破損や膨張が見られるバッテリーは使用を避けましょう。
また、機内で異常な発熱や煙を感じた場合は、すぐにCA(客室乗務員)に知らせることが鉄則です。小さな異変を見逃さない行動が、大きな事故を防ぐ第一歩になります。
5-3. 安心して空の旅を楽しむために
ANAをはじめとする航空会社は、安全運航を最優先に日々の改善を重ねています。私たち乗客も、モバイルバッテリーを正しく扱い、安全ルールを守ることで、その努力に応えることができます。便利な電子機器が手放せない時代だからこそ、改めて「安全意識」を携えて空の旅を楽しみましょう。
6. 安全な空の旅のために企業と利用者ができること
6-1. 航空会社が担うべきリスクマネジメントの進化
モバイルバッテリーや電子機器の持ち込みが一般化した今、航空会社は「機内安全管理のアップデート」を迫られています。これまでのように「危険物を持ち込ませない」という受け身の対応だけでなく、「トラブルが起きた際にいかに迅速に封じ込めるか」という危機対応能力の向上が求められています。
例えば、CA(客室乗務員)全員がリチウム電池火災対応訓練を定期的に受けることや、最新の防火バッグ・断熱グローブなどの装備を常備する取り組みが進んでいます。さらに、AIカメラを使った発煙・過熱検知システムの導入を検討する航空会社も出てきています。
ANAのような大手航空会社が率先してこうした対策を推進すれば、業界全体の安全レベル底上げにつながります。安全管理は“競争”ではなく“共有”すべきテーマであり、各社が情報をオープンにして連携する姿勢が今後の鍵となるでしょう。
6-2. 乗客ができる「安全行動のルール化」
一方、私たち乗客にも「安全の一部を担っている」という自覚が欠かせません。便利さを優先して安価な製品を選んだり、バッテリーの膨張を放置したりすることは、他の乗客の安全にも関わる行為です。以下のような行動を意識するだけでも、事故のリスクは大きく減らせます。
- 出発前にモバイルバッテリーの状態を確認し、膨張・変形があれば使用を中止する
- 航空会社が定める容量制限(100Wh/160Whルール)を事前に調べる
- 安価なノーブランド品ではなく、PSEマーク付きの正規製品を選ぶ
- 機内で異常を感じたら、ためらわず乗務員に報告する
特に、SNSや動画投稿サイトなどで「バッテリー比較レビュー」などの情報が拡散する時代では、誤った情報をうのみにせず、信頼できるソースから正しい知識を得る姿勢が重要です。
6-3. 「便利」と「安全」を両立する社会へ
モバイルバッテリーは、現代人の生活を支える欠かせない道具です。スマートフォン、ノートパソコン、ワイヤレスイヤホンなど、多くのデバイスがバッテリーによって稼働しており、旅行中や出張時には特にその存在価値が高まります。しかし、その便利さの裏に「危険物でもある」という現実があることを忘れてはいけません。
安全性と利便性を両立させるためには、メーカーの技術革新、航空会社のリスク管理、そして利用者の意識改革という“三本柱”の連携が必要です。どれか一つでも欠ければ、再発防止は成し得ません。私たち一人ひとりが、空の旅に「安心」を持ち込む当事者であるという意識を持つこと。それこそが、次の事故を防ぐ最も確実な手段です。
6-4. まとめ:小さな注意が大きな安全を守る
ANA機内でのモバイルバッテリー出火事故は、幸いにも大事には至りませんでした。しかし、その背景には、誰もが日常的に使う製品に潜むリスクが浮き彫りになったという教訓があります。安全な空の旅を守るために、企業も利用者も「気づき」と「予防」を大切にしなければなりません。
便利なモバイル機器を安心して使い続けるために、今こそ一人ひとりが行動を見直す時です。小さな注意が、大きな安全を守ります。次に飛行機に乗るとき、あなたのバッグの中のバッテリーを少し点検してみてください。それだけで、空の旅はもっと安全で、もっと快適になります。