2025年末に向けて、政府が進める「ガソリン税(旧暫定税率)」の廃止が現実味を帯びてきました。ニュースでは「ガソリンが安くなる」とも言われていますが、その裏では“新たな財源の検討”が進んでいます。つまり、単純な減税ではなく、「どこかで穴埋めする」方向性が見えてきたのです。
この記事では、ガソリン税の暫定税率が廃止されると何が変わるのか、そしてその代わりとなる新たな財源がどのように検討されているのかを、初心者にもわかりやすく解説します。家計への影響や道路インフラ維持の仕組みなど、「私たちの生活にどんな影響があるのか」という視点から、丁寧に整理していきましょう。
キーワードは「ガソリン税 暫定税率 廃止」「道路インフラ 財源」「ガソリン価格 影響」。ニュースを見てもピンとこない方に向けて、“実生活に関わるポイント”を中心に読み解いていきます。
ガソリン税「暫定税率」廃止とは?仕組みと背景をわかりやすく解説
ガソリン税の基本構造と「暫定税率」とは何か
まず理解しておきたいのは、ガソリン税がどのように構成されているかという点です。ガソリンには主に「揮発油税」と「地方揮発油税」の2つの税金が課されています。このうち、1970年代のオイルショックをきっかけに導入されたのが「暫定税率」。本来は“時限的な増税措置”でしたが、結果的に40年以上続いてきました。
具体的には、1リットルあたり約25円分がこの暫定部分にあたり、ガソリン価格を押し上げる要因となっています。つまり、この部分が廃止されれば、理論上はガソリン価格が1リットル25円程度下がる計算になります。ただし、実際には流通経費や為替、原油価格の変動もあり、単純に25円安くなるとは限りません。
ガソリン税は、国と地方が道路整備やインフラ維持に使う「特定財源」として機能してきました。そのため、暫定税率を廃止すれば、その分の財源が失われるという課題が生まれます。
なぜ今、廃止の方向に動いているのか
近年のガソリン価格高騰や物価上昇により、国民の負担が重くなっていることが背景にあります。特に地方では車が生活の必需品であり、ガソリン価格の上昇が生活コストを直撃しています。こうした状況から、「暫定税率を見直すべきではないか」という声が高まり、政治的にも動きが加速したのです。
また、カーボンニュートラルやEV(電気自動車)推進の流れも影響しています。将来的にガソリン車が減れば、ガソリン税収も自然に減少します。そこで、政府は税制構造そのものを見直し、持続可能なインフラ財源を確保する方向へと舵を切り始めたのです。
つまり、「ガソリン税廃止」は単なる減税政策ではなく、「社会構造の転換」ともいえる動きなのです。
廃止によって生じる“財源不足”の規模と現実
政府試算によると、暫定税率の廃止によって年間約1.5兆円の税収が失われると見込まれています。この金額は、全国の道路補修・橋梁改修・老朽トンネルの補強など、インフラ維持に使われてきた重要な財源です。
例えば、地方自治体の中には「この税収がなければ道路補修が遅れる」「除雪作業の予算が足りなくなる」といった懸念を抱くところも少なくありません。国の一般財源だけで補うのは難しく、結果的に「新たな税制」や「インフラ目的税」の導入が議論される背景となっています。
したがって、ガソリン税の暫定税率廃止は「歓迎すべき減税」である一方で、「どのように財源を補うか」という難題を同時に抱えています。次章では、政府が検討する新たな財源の方向性と、その影響について解説します。
ガソリン税廃止後に検討される新たな財源と、私たちの生活への影響
インフラ維持に必要な「安定財源」とは何か
ガソリン税の暫定税率廃止によって1.5兆円規模の税収が減少することは、政府・自治体双方にとって大きな問題です。道路・橋・トンネルなどの維持管理費は年々増加傾向にあり、特に地方では「財源がなければ道路が維持できない」という声も上がっています。
インフラ整備には、一度つくった後も「保守」「補修」「更新」のために継続的な予算が必要です。国土交通省の資料によると、老朽化が進むインフラの維持管理費は2030年代にかけてさらに膨らむとされています。そのため、単発の補助金や一時的な交付金ではなく、長期的に安定して確保できる財源=“安定財源”が求められているのです。
このような背景から、政府は「新たな税源」を模索しています。単純に一般会計からの支出を増やすだけでは、社会保障費など他の予算を圧迫してしまうため、インフラ目的の新税や課金制度を導入する案が浮上しています。
有力とされる「走行距離課税」「環境目的税」の構想
政府や一部有識者の間で検討されているのが、「走行距離課税」や「環境目的税」といった新しい税の仕組みです。これらは、ガソリンの消費量ではなく“車の利用そのもの”や“排出量”に応じて課税する仕組みです。
たとえば「走行距離課税」は、EV(電気自動車)の普及によってガソリン税収が減少する未来を見越し、走行距離に応じて課税する考え方です。車の使用が多い人ほど負担が増えるため、「公平性が高い」とする意見がある一方、走行記録の把握方法やプライバシーの問題も指摘されています。
また、「環境目的税」はCO₂排出量に応じて課税する方式で、環境保全を目的とした税金です。EU諸国ではすでに導入例があり、今後の日本でも導入議論が進む可能性があります。いずれも、「ガソリン税に代わる持続的な財源」を確保しつつ、環境政策にもつながる点が特徴です。
ただし、これらの新税は導入までに時間がかかるため、政府は当面の間「税収の上振れ分」や「予備費」で補うとしています。つまり、来年末までは現行制度での“暫定的な穴埋め”が行われる見通しです。
家計や生活にどんな影響がある? 増税の可能性とその見通し
多くの人が最も気になるのは、「私たちの生活にどう影響するのか」という点でしょう。ガソリン税の暫定税率廃止によって、短期的にはガソリン価格の低下が期待されます。1リットルあたり10〜20円程度下がれば、月に数百円〜数千円の節約効果が出る家庭もあります。
しかしその一方で、新たな財源を確保するための“別の増税”が将来的に導入されれば、結果的に家計負担が変わらない、あるいは増える可能性もあります。たとえば、走行距離課税や環境税が導入されれば、車の利用が多い家庭ほど影響を受けやすい構造です。
また、道路整備費用が十分に確保できない場合、道路の劣化や渋滞、交通安全面への影響も懸念されます。インフラの老朽化は生活の質に直結する問題であり、単なる“税金の話”にとどまりません。ガソリン税の見直しは、「暮らしの安全をどう維持するか」という社会全体の課題でもあるのです。
今後の焦点は、政府がどのように新たな財源を決めるのか、またそれが国民の負担にどう反映されるのかにあります。ガソリン価格の変動だけでなく、「制度の全体像」を理解することが、今後の家計管理にも役立つでしょう。
これからの税制改革と私たちの生活対策|“ガソリン減税の先”に備えるために
政府の狙いと税制改革の方向性を読み解く
ガソリン税の暫定税率廃止は、単なる「減税」ではなく、国全体の税制構造を見直すための第一歩でもあります。政府は今後、消費税や環境税、走行距離課税などを含めた“トータルの税体系”を再構築しようとしています。
その背景には、少子高齢化による社会保障費の増大、インフラ維持費の拡大、脱炭素社会へのシフトといった課題が複雑に絡んでいます。単一の税金を廃止しても、他の部分で財源確保が求められるため、結果的に「どこかで新たな負担が生まれる」構図となるのです。
実際、財務省や経済産業省では、「走行距離課税」「カーボンプライシング(炭素価格の導入)」「再エネ目的税」などの検討が進んでいます。こうした動きは一見複雑ですが、共通しているのは「環境に配慮しつつ、持続可能な税収を確保する」という方針です。
つまり、ガソリン税の見直しは“点”ではなく“線”。これから数年かけて、税制全体が再設計される過程にあるということを理解しておく必要があります。
ガソリン価格変動に備える家計管理のポイント
ガソリン価格は、原油価格や為替の影響を受けるため、税率変更だけでなく国際的な要因によっても上下します。したがって、「税が下がったから安心」と考えるのは早計です。今後は、減税と増税の両方の可能性を視野に入れた家計管理が重要になります。
たとえば、車を日常的に使う家庭では、燃費効率の良い車への乗り換えや、カーシェアリング・公共交通の活用が現実的な節約策になります。ガソリンスタンドの価格比較アプリを活用することも、年間数千円〜数万円の差につながることがあります。
また、政府のエネルギー補助金や、EV・ハイブリッド車購入支援策などを上手に活用することも賢い選択です。補助金制度は時期によって変わるため、環境省や経産省の公式サイトを定期的にチェックすることをおすすめします。
ガソリン価格の変動は避けられませんが、「情報を知り、準備する」ことで家計への影響を最小限に抑えることができます。
今後10年を見据えた「生活防衛」戦略とは
税制やエネルギー政策が大きく変化していくこれからの時代、私たちに求められるのは「短期的な節約」ではなく「長期的な生活設計」です。ガソリン税に限らず、電気・ガス料金、環境関連税など、生活コスト全体が少しずつ変わっていくことを前提に考える必要があります。
たとえば、燃費や維持費の安い車を選ぶ、住居の断熱性能を上げて光熱費を抑える、太陽光発電など再エネ活用を検討する――こうした“生活インフラの自衛”が今後ますます重要になります。
また、税制の変化に対応するには、資産運用や貯蓄のバランスも見直すことが大切です。たとえば「iDeCo(個人型確定拠出年金)」や「NISA(少額投資非課税制度)」など、税制優遇が受けられる仕組みを活用すれば、将来的な税負担の軽減にもつながります。
ガソリン税廃止をめぐる動きは、単なる“車社会の話題”ではなく、「国の税と私たちの暮らしがどう変わるか」を示すサインでもあります。情報を正しく理解し、長期的な視点で備えることが、これからの生活防衛の鍵となるでしょう。
まとめ|「ガソリン減税」はゴールではなく、始まりにすぎない
ガソリン税の暫定税率廃止は、確かに一時的な負担軽減にはつながります。しかし、それは「税制の終わり」ではなく「新たな税体系への転換点」にすぎません。政府は今後、道路インフラの維持や環境対策を目的とした新たな財源を検討しており、その中で私たちの負担の形も変化していくでしょう。
短期的にはガソリン価格の下落が期待できても、長期的には別の形で税負担が生じる可能性があります。だからこそ、「安くなった・高くなった」という表面的なニュースだけでなく、その背後にある税制や経済構造の変化を理解することが重要です。
これからの時代、私たち一人ひとりが「情報を見極める力」と「備える力」を持つことが求められます。ガソリン税の見直しをきっかけに、自分の暮らしのコスト構造やエネルギー消費のあり方を見直す――それが、これからの賢い生活防衛の第一歩になるでしょう。
参考リンク
- 「最適課税論からみたガソリン税率:日米英比較」
→ 税制の視点からガソリン税の水準や外部費用を分析したもので、本文で触れた「暫定税率廃止後の税率の適正化」という観点を補強します。 - 「人口減少下におけるインフラ整備を考える視点」
→ 日本の人口減少・成熟社会におけるインフラ維持管理の課題を整理した論文で、「インフラの維持・更新」「安定財源」の必要性についての記事内容と直接つながります。 - 「インフラ老朽化対策と更新投資ファイナンスに関する考察」
→ インフラ更新・維持に必要な投資規模や財源構造を論じた資料で、本文で述べた「1兆円超の税収減」「代替財源の検討」というテーマの理解を深める補助資料となります。

