年金はいつからもらうのが得?繰り上げ・繰り下げ受給のメリットと損益分岐点をわかりやすく解説

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物価高騰が続く中、「年金をいつから受け取るか」は多くの人にとって現実的な悩みです。 ニュースでも「繰り上げ受給」や「繰り下げ受給」という言葉を耳にする機会が増えましたが、実際にはどちらが得か、損なのかを判断するのは簡単ではありません。

この記事では、年金の受給開始年齢を早める・遅らせることでどう変わるのか、そしてどのような人にどちらの選択が向いているのかを、数字とともにわかりやすく解説します。 「年金だけで暮らしていけるのか」「老後の資金が足りるのか」といった不安を感じている方に向けて、これからのライフプランのヒントになる内容を丁寧にまとめました。

繰り上げ受給と繰り下げ受給の違いとは?仕組みと受給額の基本

年金の受給開始年齢の基本ルール

公的年金は原則として65歳から受給を開始できますが、希望すれば60歳から「繰り上げ受給」、75歳まで「繰り下げ受給」が可能です。 この制度は「早くもらえば減額」「遅くもらえば増額」という仕組みになっています。 例えば国民年金の場合、60歳から受け取ると24%減額、75歳から受け取ると84%増額(2025年現在)とされています。

ただし、一度「繰り上げ受給」を選ぶと取り消すことはできません。 そのため、短期的な生活資金の必要性と、長期的な受給総額のバランスを考えることが重要になります。

繰り上げ受給のメリットと注意点

繰り上げ受給の最大の利点は、「早くお金が入る」ことです。 例えば60歳で仕事を辞めた場合、収入源が途絶えてもすぐに生活費を補うことができます。 また、「自分の寿命がわからないから、早くもらいたい」と考える人も多く、2023年度の厚労省データでは約10%の人が繰り上げを選んでいます。

しかしデメリットもあります。 減額率は1か月あたり0.4%で、たとえば5年前倒しすると24%減ります。 さらに、減額は一生続くため、長生きするほど受給総額では不利になる点に注意が必要です。

繰り下げ受給のメリットとリスク

一方で「繰り下げ受給」を選ぶと、1か月ごとに0.7%増額されます。 70歳から受け取れば42%、75歳なら84%も増えるため、長生きすればするほど得になります。 特に健康に自信があり、働きながら70歳以降も収入を得ている人に向いている方法です。

ただし、受給を遅らせる間は当然ながら年金が入ってこないため、生活資金に余裕があることが前提です。 また、働きすぎると社会保険料や税負担が増えるケースもあるため、老後の生活設計をトータルで見直すことが大切です。

何歳から受給すると得?損益分岐点とライフプランの考え方

年金の損益分岐点を具体的に知る

「結局、いつもらうのが得なの?」という疑問に答えるために、損益分岐点の目安を見てみましょう。 一般的には、60歳で繰り上げ受給した場合、80歳10か月で65歳開始の総額を下回り、70歳で繰り下げた場合は81歳11か月で逆転すると言われています。 つまり、**80歳前後が損益分岐ライン**と考えるとイメージしやすいでしょう。

この数字を見ると、長生きすればするほど「繰り下げ受給」が有利ですが、健康状態や生活費の事情によって最適な選択は変わります。

ライフプラン別に見る最適な受給年齢

例えば、60代前半で持病があり将来の健康に不安がある場合は「繰り上げ」が現実的。 一方で、65歳以降も働く意欲があり、家計に余裕があるなら「繰り下げ」が適しています。 また、夫婦で年金をもらう場合は、片方を繰り上げ・片方を繰り下げるといった「ハイブリッド戦略」も有効です。

重要なのは、「何歳まで生きるか」ではなく、「どんな生活を送りたいか」という視点で考えることです。 老後資金のシミュレーションを行い、生活費・医療費・趣味費などを含めて現実的に設計することが、結果的に最も安心につながります。

公的支援・相談窓口を上手に利用しよう

迷ったときは、年金事務所や社会保険労務士に相談するのがおすすめです。 特に50代以降は、扶養家族の有無や働き方によって受給額が変動するため、専門家のアドバイスが役立ちます。 また、ハローワークの「シニア再就職支援セミナー」なども、生活費確保の現実的な手段として注目されています。

老後の年金戦略は、「制度を知り、選択する力」を持つことが第一歩です。 情報を整理して、自分の人生に合ったタイミングを見極めましょう。

年金を繰り上げ・繰り下げする際の注意点とリスク

制度面の注意点:一度選ぶと原則変更できない

年金の繰り上げ受給や繰り下げ受給は、一見すると「早くもらえる」「多くもらえる」という単純な選択のように思われがちです。しかし実際には、一度申請して受給開始年齢を決めると、原則として後から変更することはできません。これは多くの人が見落としやすい重要なポイントです。

例えば、60歳から繰り上げ受給を選んだ場合、65歳以降に「やっぱり繰り上げなければよかった」と思っても、減額率(1か月あたり0.4%、最大24%)は生涯にわたって固定されます。逆に70歳まで繰り下げた場合も、途中で「やはり早く受け取っておけばよかった」と変更することはできません。

つまり、繰り上げ・繰り下げの判断は「将来の生活設計」「健康状態」「家族構成」「貯蓄状況」などをトータルで考える必要があります。年金制度は複雑ですが、制度上の不可逆性を理解してから選択することが大切です。

税金や社会保険への影響も無視できない

年金の受給開始年齢を変えることで、思わぬ税金や社会保険への影響が生じることがあります。たとえば、繰り上げ受給をして早めに年金を受け取ると、他の収入(パート収入や退職金)と重なる時期が生じ、所得税や住民税が増えるケースがあります。

逆に、繰り下げ受給を選んで受け取る年齢を遅らせた場合、年金額が増えることで「年金収入が増え、介護保険料や国民健康保険料の算定基準額が上がる」という影響が出ることもあります。特に65歳以降も働く「現役シニア世代」にとっては、年金と給与のバランスを考えることが重要です。

年金は「受け取る金額」だけでなく、「受け取るタイミングと税負担の関係」も考慮する必要があります。税理士や社会保険労務士などの専門家に相談することで、手取り額を最大化できるケースも多いでしょう。

健康・寿命リスクを踏まえた判断の重要性

繰り上げや繰り下げの損益分岐点は理論上では計算できますが、実際の人生は数字だけで割り切れません。大切なのは、自分や家族の健康状態、寿命の見通し、介護の可能性など「生き方のリアル」を考慮することです。

たとえば、「健康寿命が長く、70代・80代でも活動的に過ごせる見込みがある」人は繰り下げ受給のメリットが大きくなります。一方、「60代前半から生活費が必要」「持病があり長期の見通しに不安がある」場合は、繰り上げ受給によって早めに資金を確保する判断も合理的です。

損益分岐点の数字だけでなく、「自分らしく生きるために、どの時期から安心してお金を使いたいか」を軸に考えると、納得のいく選択ができるでしょう。

後悔しないために!年金受給年齢を決めるポイントと実践的アドバイス

ライフスタイル別に考えるおすすめ受給時期

年金の受給開始年齢を決める最も現実的な方法は、自分のライフスタイルや収入状況に合わせて考えることです。たとえば「60歳で完全リタイアして旅行や趣味を楽しみたい」人と、「70歳まで働きたい」人では、最適な受給開始年齢はまったく異なります。

早期リタイア型の人は、繰り上げ受給で生活資金を早めに確保することで、ゆとりある時間を手にできます。一方、現役継続型の人は繰り下げによって将来の受給額を増やすことで、老後資金の安心度を高めることができます。

大切なのは「何歳から働かない生活を送るのか」「そのときに生活費をどこから捻出するのか」という具体的な設計を立てることです。ファイナンシャルプランナー(FP)のシミュレーションを利用すると、数字で判断できるためおすすめです。

夫婦・共働き世帯での受給戦略の立て方

年金制度では、夫婦それぞれが受給権を持つため、「どちらを繰り上げ、どちらを繰り下げるか」によって世帯全体の受給総額が大きく変わります。たとえば、夫が繰り下げて受給額を増やし、妻が早めに受給を開始することで、世帯としてのキャッシュフローを安定させる方法もあります。

また、共働き世帯では、退職時期や収入差によって最適解が異なります。片方が厚生年金、もう片方が国民年金という場合もあり、それぞれの年金額や寿命リスクを考慮した「組み合わせ戦略」が鍵となります。

「夫婦のどちらかが長生きした場合」「どちらかが病気になった場合」など、さまざまなシナリオを想定しておくと、後悔のない選択ができるでしょう。

迷ったときの判断基準と実践的な考え方

繰り上げ・繰り下げのどちらにもメリットとデメリットがあるため、多くの人が「どちらが得なのか決めきれない」と感じます。そんなときに役立つのが、「損得」よりも「安心感」を基準にするという考え方です。

たとえば、「老後の生活費に不安がない」「資産や貯蓄に余裕がある」人は、繰り下げによって将来の受給額を増やす選択が合理的です。逆に、「今の生活費が厳しい」「早めに年金を活用したい」場合は、繰り上げを選ぶほうが安心して生活できます。

また、年金だけでなく、「iDeCo」「企業年金」「退職金」「預貯金」などを組み合わせることで、より柔軟な老後資金設計が可能です。年金受給は人生設計の一部としてとらえ、全体のバランスを意識すると、納得度の高い選択につながります。

将来の年金制度・制度変化を見据えた備え方と戦略

制度変更リスクと受給年齢への影響

年金制度は、経済状況や少子高齢化の進行、政権交代などによって将来的に変更される可能性があります。 例えば、受給開始年齢の上昇、給付水準の引き下げ、支給調整メカニズムの導入などが議論されることもあります。 こうした制度改正リスクを無視して受給年齢を決めると、将来「想定よりも受給額が少なかった」と後悔することもあり得ます。

たとえば、いま65歳受給開始が原則とされている年金制度が、将来的には70歳受給開始などに改正される可能性を、一部の報道や学説では指摘されています。 もしこのような改正がなされた場合、62〜64歳での繰り上げ受給を選んでいる人は、その差に苦しむ可能性があります。

したがって、受給年齢を決める際には「今の制度を前提にすること」「将来の変化をゼロとは考えないこと」の両方を意識する必要があります。 受給開始年齢を早める判断は、制度リスクを織り込んだ余裕のある資産や収入構造があるかどうかも判断材料としたいところです。

年金以外の収入源(貯蓄・iDeCo・副業など)との併用戦略

年金受給に頼るだけでなく、他の収入源や資産運用を用意しておくことが「安心できる老後」を支える鍵です。 例えば、iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型年金、退職金、個人年金保険、金融資産(預貯金・投資信託など)を複数組み合わせることで、年金制度の変動にも耐えうる資金基盤を作れます。

さらに、60歳以降も健康な方は、パートタイムの収入やフリーランス仕事を継続することも現実的な選択肢です。 このような「年金+副収入+資産取り崩し」の複合型モデルをあらかじめ設計しておくと、早期受給・遅延受給のどちらを選んでもリスクを分散できます。

特に繰り下げ受給を選ぶ場合は、受給までの期間の生活資金をどう補うかが問題になりますが、他の収入や資産があれば安心度が格段に上がります。 ですから「年金だけで暮らす」ことを前提にせず、多角的な資金設計を考えることが非常に重要です。

定期的な見直しとシミュレーションの実践法

受給年齢を決定したからといって、それで終わりというわけではありません。人生は変化します。家庭環境、健康状態、貯蓄額、収入構造などは時間とともに変わるのが普通です。 そのため、「受給年齢戦略」は定期的に見直すことが望ましいのです。

具体的には、5年〜10年ごと、もしくは大きなライフイベント(定年、退職、病気、家族の変化など)があったときに、年金受給シミュレーションをやり直すのがおすすめです。 公的な年金シミュレーター(日本年金機構の「ねんきん定期便オンライン版」など)を使えば、将来受給額の見通しを簡易的に確認できます。

また、ファイナンシャルプランナー(FP)や社会保険労務士に相談して、税金負担や手取り年金額を見据えた最適な受給開始年齢を再検討するのも賢い戦略です。 こうした見直しサイクルを設けておくことで、最適な年金受給戦略を継続的に維持できるようになります。

まとめ

年金を「いつから受け取るか」は、人生設計の大きな分岐点です。早めに受給して生活資金を確保する「繰り上げ受給」、そして将来の年金額を増やす「繰り下げ受給」。それぞれにメリット・デメリットがあり、どちらが有利かは個人の寿命予測や収入構造、健康状態、貯蓄状況によって変わります。

特に繰り上げ・繰り下げは、申請後に変更できない点、税金・社会保険料の影響、制度変更リスクなどをしっかり理解しておく必要があります。また、年金だけに頼るのではなく、iDeCoや副業、金融資産など複数の収入源を組み合わせることで、リスク分散が可能になります。そして、定期的な見直しとシミュレーションを行うことで、長い人生の中でも最適な選択を追求できるようになります。

最終的には、「自分らしく安心して老後を過ごす」ための選択です。数字だけにとらわれず、生活の安心感を軸に、納得できる受給年齢を決めていきましょう。

参考リンク

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